君がたまらなく好きだったよ。

代々木公園で、去年のことを思い出した。
まだ咲いていなかった桜。
やさしく、愛しそうな顔をする君。
すこし切なくなった。

帰りの下北沢、17:40。
目の前にいた、黄色いシャツにジーンズ、キャップをかぶった男の子。
後ろ姿だったけど、君だと思った。
会いたいような会いたくないような、
顔を見たくても見れない。

彼の左側には、手をつないだ、女の子。

ああ、彼女ですか?
いいね、簡単に恋できて。
わたしちっともできないや。
だから君かもしれない後ろ姿だけで
苦しくなる。

いや、もう好きじゃないよ、ただ、あの頃わたしは
死ぬほど幸せで死ぬほど不安で
君といる時間はとても幸せでとても不安ですぐ消えてしまって
今、一人でいる今、思い出すととても切ない。

ねえ、写真が好きだと言ってくれた気持ちは、もうないの?
君にとってわたしは、写真家ではなく女の子だったんですか?
写真家だったなら、応援してくれてもいいじゃない?
もういやになったから、写真も興味ないのかなぁ

女の子として愛されるよりも
写真家として愛されたほうが、
ずっと長く、付き合っていられるのかなぁ。
仲良しでいられるのかな。
それなら、わたしは、写真家として愛されたいと思う。

いつか恋に終わりがきたとき、
1年経ってもまだ涙が出るような想いは
ちょっと耐えられないな。

あぁ、なんであのとき、素直になれなかったのかなぁ。
素直なのがいいって、言ってくれたのにね。

あれは君なのかな、君にしては髪が長いんじゃないか?
だてメガネかけてなかったし。
顔、ちゃんと見ればよかったな。

見てどうするんだろう
会って何を言うんだろう

平気な顔をして、イベント来てくださいねとでも言うのだろうか。

最近写真どうですか、まあわたしのほうがうまいんだろうけど
なんて言いながら
どこに引っ越したの?とか

ああ、もう一度、あの愛しそうな顔で、
なかむらくん、て 
呼んでくれないかなぁ

今日ね、1本だけ、桜が咲いてたの。
きれーだったよ
そういえば、三茶のカレー、食べに行ってないね
そのうち行こうよ、
すこしだけビール飲めるようになったから、
一緒にビール飲もうか、
カレーもまた半分こしようよ

思い出を美化するのはわたしの悪い癖だ。
彼に会ったところで今更どうにもできないことも
1年前の気持ちにはもう戻れないことも
わかっている。